このシリーズも4回目となりました。
EDWARD GREEN、CROCKETT&JONES、RAYMARに続いて昨年、私が虜になったVASSの比較をしていきます。
VASSは既製靴の最高峰と言われるメーカーで、フルハンド、実用性も兼ね備えた作りで履き心地も良い、様々なラストがある、シューツリー付き、オンラインストアでの対応も素晴らしい、個人輸入すれば価格も優しい…等々、私が虜になった理由を挙げればキリがありません。
購入しようしようと思って未だに購入できていませんが、名著Handmade Shoes For Menを書いたのもVASSの創業者であるラズロ・ヴァーシュさん。VASSの良い評判は聞いても、悪い評判を聞くことは今のところほとんどありません。
さて、今回のVASSの比較については、足入れしたことのあるU/F/K/S/P/P2の6種類のラストについて記載します。
※そのうち、Sラストは足に合わず手放してしまったので、思い出しながら記載します。
今回、比較に使用した靴は以下の通りです。
ラスト | モデル | サイズ表記 |
U | Budapest Oxford | 40.5 |
F | Italian Oxford | 40.5 |
K | London-3eyelet | 40.5 |
S | Wholecut | 40.5 |
P | Slipper | 40 |
P2 | Budapest | 40 |
ラストに応じて40.5か40を選択。いずれもこれより小さい、もしくは大きくなると履けないジャストサイズだと感じています。
本当は同じ形の靴でラスト違いを試せれば良いのですがそうもいかず、ラスト以外の要素もサイズ感に影響はあると思いますが思いますが、その点はご容赦ください。
VASSとは
簡単にVASSとはどのようなブランドなのかを記載します。
VASSは東欧ハンガリーの首都ブダペストに拠点を構えるシューメイカー。1978年創業でHPには伝統的な手法で靴づくりを続けつつ、変化の早いファッショントレンドに左右されず、履き心地の良い靴を提供している、とあります。
フルハンドの靴をブダペストの工房で、東欧靴らしいフォルム(爪先絶壁、ぼってりと丸みのあるもの)もあれば、イタリアンラストと呼ばれるドレスよりのフォルムのものもありラストも幅広い。
※イタリアンラストは超有名な靴職人、ロベルトウゴリーニさんとのコラボラスト
また、使っている革はイルチアのミュージアムカーフをはじめ、アノネイやデュプイ、アースをアッパーに使い、レザーソールにはレンデンバッハを使うなど素材も良いものを使っているようです。
注文については既製品のRTWに加えてWebからMTOすることも可能です。メールでFラストをベースに他のラストのサイズを問い合わせした時に、MTOもおすすめされました。VASSのオンラインストアではRTWでもかなり豊富に選べるのですが、MTOではエギゾチックレザーも選べたりします。
ラストの種類
VASSには様々なラストが存在します。私が知る限りになりますが、以下のラストが現在あるようです。
U、S、K、Fラストはイタリアンラスト、その他がVASSのハウスラスト。東欧靴らしいフォルムをしているのはP2、Budapest、3636あたりですね。
願わくば全ラスト制覇したいところですがまだまだ道半ばです^^;
細めのラスト | U、S、K |
標準 | F、R、FB、P2 |
ゆったり目のラスト | P、Budapest、3636 |
モデルの種類
ラストと同様、モデルも豊富に揃っています。
例外はありますが、同じモデル名でもOxfordがつくと内羽根、なければ外羽根になります。
※例えばBudapestはウイングチップのモデルですが、内羽根はBudapest OxfordとOxfordが着く
種類 | モデル名 |
内羽根キャップトゥ (セミブローグ等含む) | Alt English |
外羽根ストレートチップ | Theresianer |
外羽根セミブローグ | Alt Wein |
プレーントゥ | London |
アデレード | Italian Oxford |
ロングヴァンプ (キャップトゥ) | Balmoral Oxford |
ロングヴァンプ (プレーントゥ) | French Oxford |
ウイングチップ | Budapest Oxford (外羽根はOxfordなし) |
ブラインドブローグ | Austerity Brogue |
ローファー | Slipper |
ホールカット | Wholecut |
ダブルモンク | Double Monk |
シングルモンク | Single Monk |
Uチップ | Norweger |
ラストも豊富ですが、モデルの種類も豊富(上記は短靴のみ、それでもおそらく上記で書ききれていません)、同じモデルでもラスト違いで揃えることもできるので飽きませんね^^
私の足のサイズ
さて、ここから本題に入ります。まずはいつも通り、私の足のZOZOMATでの計測結果を掲載します。
ラストや靴の形、メーカーによっても当然異なりますが、UK7E、US7.5D、25.5cmを履くことが多いです。
ZOZOMATでの計測結果は上図の通りで、甲はやや低めの幅は標準的、かかとはやや小さめとなります。
※詳細は「ZOZOMAT」もしくは「履いたことのある革靴のサイズ感まとめ」の記事をご参照ください。
各ラストの特徴とサイズ感
各ラストの特徴とサイズ感について記載していきます。
もしここに記載のない内容で追記した方がわかり良い観点があればご指摘いただければ幸いです。
Uラスト サイズ40.5 (モデル名:Budapest Oxford)
まずはロベルトウゴリーニさんの頭文字からとったイタリアンラストのUラストです。
ご覧の通り、全体的に細身のスクエアトゥが特徴のラスト。アーチの支えがかなりしっかりとしておりグッと踏まずを持ち上げてくれる感覚で履いていてとても気持ちが良いラストです。
かかともしっかりとフィットし、当然ながら抜けることもなく、爪先は少しキツ目ではありますが私の足にあっているラストです。
トゥはスクエアトゥ。こうしてみるとボールジョイントから爪先にかけて台形のような結構特徴的な形をしています。
細身のラストで形状的にも爪先付近はややタイト。さらに1の甲も低めとVASSの中ではタイトなラストだと思います。
その一方で3の甲はそこまで低くありません。
上から見るとあまり内ぶりに見えないラストでしたが、ソールを見るとかなり内にふられています。ソールの形状からもグッとウエストが絞られており細身ですが、履くと見た目ほど細さを感じません。
ソールの全長と幅はサイズ感の参考にはあまりなりませんが、全長は28.5cm、幅は10.1cmになります。
Uラストのまとめとして、細身のスクエアトゥ、爪先付近はややタイトで1の甲も低いが2、3の甲は高さもある。また、ウエストがしっかり絞られており、アーチの支えがとても心地よい。さすがはロベルトウゴリーニさんのイニシャルがついたラストといったところでしょうか。
サイズ感としては、40.5でややタイト、ウィズが広い方はハーフサイズ上げても良いかもしれません。
Kラスト サイズ40.5 (モデル名:London-3eyelet)
続いてはKラスト。
こちらもイタリアンラストで、モデルの影響もあるかと思いますがノーズも長く、よりイタリアっぽさが出ていると感じています。
上からみると菱形のような形をしており、こちらも細身のラストです。
トゥはセミスクエアトゥでしょうか、ボールジョイントからトゥにかけて綺麗な二等辺三角形に近い形のトゥです。みる限りかなり細く見えますがUラストよりも爪先に余裕があり1の甲も低すぎず高すぎずといったところ。
サイズは40.5を選択していますが、タイトすぎずジャストサイズです。細身ながらも2,3の甲はこちらもやや高めで細さを高さで吸収する形。元々羽根は閉じるデザインだとは思いますが羽根は閉じます。
かかとの抜けはこちらもありません。
ソールからみるとUラスト以上に細く見えます。内振り具合は同程度でしょうか。ウエストの絞りはボールジョイント部分と比較するとやや弱めでこちらもUラストと比較するとアーチの持ち上げは控えめです。
アウトソールのサイズは全長29.6cm、幅9.8cmです。アウトソールからもノーズが長めであることが見て取れます。
Kラストのまとめとして、細身ではあるものの2,3の甲の高さで吸収し、見た目ほどタイトさを感じないラスト。アーチの支えはそこまで強くなく、クセも少なめのラストです。
Fラスト サイズ40.5(モデル名:Italian Oxford)
続いてはFラストです。こちらもイタリアンラストですがU、Kとは異なりラウンドトゥの英国っぽい雰囲気のあるラスト。このFラストが一番人気があるみたいですね。
上から見るとインステップ側はストレートに伸びるライン、かかとから外側がやや大きめに膨らみ、トゥにかけてまた小さくなっていく、グリーンの82ラストのような形です。
アーチの支えは程々、U、Kラストと比較すると1の甲もウィズもゆとりがあります。
トゥはラウンドトゥ。ボールジョイントの部分は標準的な幅で程よくホールドしてくれます。
前述の通り、1の甲もやや高めで足とは距離を感じるのですが、不思議と緩さは感じることなくかかとの抜けもありません。
ソールから見ると、ウエストの絞りも控えめ、内振りは同程度ほどでこちらもクセがあまりないラストですね。全長は29.3cm、幅は10.3cmとウィズのゆとりを感じた通りの数値となっています。
Fラストのまとめとして、ラウンドトゥで外観のクセもなく、履き心地としてもどこかが大きく絞られたりしている部分もないため多くの人に受け入れられやすいラストかと思います。私個人としては1の甲はもう少し低めだと嬉しいですがかかとの抜けも当然なく快適なラストです。
サイズ感としては40.5がやはりジャストだと感じます。これ以上下げると1の甲はフィットしても、爪先が当たってしまいそうです。
Sラスト サイズ40.5(モデル名:Wholecut)
続いてはSラストです。こちらもイタリアンラストの一角で、Kラストのように菱形に近いシルエットながらスクエアトゥとUラストとKラストを足して2で割ったようなフォルムをしています。
ボールジョイントからトゥにかけてのカーブはそこまできつくなく、細身ながらもウィズはゆとりを感じるラストです。ですが、このSラストは1,2,3の甲がいずれも高めに設定されており、特に3の甲は顕著です。
拡大してみるとかなり細身の、そしてイタリア靴っぽいフォルム。これでいてウィズはタイトに感じないのですから甲の高さでうまく吸収するようなラストなのでしょう。
VASSに問い合わせて相談した上でサイズ40.5を選びましたが、羽根は閉じ切りさらにそれでも余裕がある状態でした。だからと言って40に下げると今度は寸詰まりになりそうな気がします。そのため、甲が高めの人の方が合うラストだと思います。
内振りはそこまで強くなく、ウエストの絞りも見た目ほどきつくありません。形としてはKラストに近いですがアーチの支えもそこまでなく平たい印象です。全長は29.8cm 、幅9.8cmほど。
Sラストのまとめとして、細身ながらも甲が高めのため見た目ほど窮屈に感じないラストです。甲が低い人には合わないと思いますしアーチの支えが欲しい人にも物足りないラストだと思います。
P2ラスト サイズ40(モデル名:Budapest)
残り二つはVASSのハウスラストです。まずはP2ラスト、New Peterラストとも呼ばれています。P3ラストなるものもあるようです。
東欧靴らしくトゥのせりあがりはあるものの控えめで、コロンとした丸っこいフォルムでゴツすぎずとても合わせやすい。個人的にこのP2ラストは足との相性もよく購入した中で一番履いているのがこのBudapestになります。
上からみてみると、インステップはストレート、外側はヒールからボールジョイントまで広がりトゥにかけても緩やかにカーブを描いています。捨て寸は少なめ、かかとも小さめになります。
トゥはラウンドトゥ。東欧靴らしくトゥがせりあがっていて爪先に多少ゆとりはあるのですが、ウィズは比較的細めで程よいタイト感。
丸っこくてもしっかりとホールドしてくれて履き下ろしの時から非常に足馴染みが良いラストです。1の甲、2,3の甲もUラストよりは高いかな、と思いますが低めに設計されているのではと思います。
サイズとしては40を選んでいます。これはFラストと同時購入したのですが、VASSからFラストと比較するとハーフ落とした方が良いよ、というアドバイスをもらったためです。結果的に大正解でした。
ソールから見ると、思ったよりも細身に見えてきます、内振りは控えめですがウエストは絞られておりアーチも程よく支えてくれます。全長は28.8cm 、幅10.2cmほどになります。
P2ラストのまとめとして、東欧靴らしいフォルムをしながらも程よいタイトさ、ホールド感もしっかりとしておりいい意味でのGAPを感じられるラスト。個人的におすすめのラストになります。
Pラスト サイズ40(モデル名:Slipper)
最後はVASSのハウスラストのPラスト、Peterラストとも呼ばれていますがこちらはローファー専用のラストになります。
こちらも東欧靴らしくトゥのせりあがりはあるものの控えめで、コロンとした丸っこいフォルムというのはP2ラストと変わりません。ゴツすぎずとても合わせやすい。
上からみてみると、P2よりも菱形に近い形のシルエットですが、外側はヒールからボールジョイントまで広がりトゥにかけても緩やかにカーブを描いていて、捨て寸は少なめ、かかとも小さめという点はP2ラストと同様です。
トゥはラウンドトゥ。東欧靴らしくトゥがせりあがっていてつまみモカの部分がトゥに関してはソールとほぼ位置が同じになっていますね。
丸っこくて優しい印象を与えてくれるローファーですが、ホールド感は一級品で履き下ろしの時から非常に足馴染みが良いラストです。P2ラストとホールド感としては近いですがややPの方がゆとりがあるかな。
サイズは40を選んでいます。捨て寸が少ないこともありますし、このサイズでローファーで問題になりやすいかかとの抜けもないことからこのサイズが適性です。
ソールから見ると、P2よりもウィズ方向がひとまわり大きく見えます、内振り、ウエストの絞りも控えめです。全長は28.3cm 、幅10.4cmほどになります。
Pラストのまとめとして、P2ラストに近いフィット感ながらも少しゆとりはあります。ですがかかとが抜けることもなく良いサイズ感です。ウエストンのような超タイトフィッティングから慣らしていく、とは真逆の思想のローファーだと思います。
サイズ感とは関係ないのですが、このローファーにはちょっとしたトラブルがあり、それに対してVASSの対応があまりにも素晴らしくてVASSが大好きになった思い出の靴です。
VASSから教えてもらったサイズ選び
VASSはアローズの別注品のFラストを試着したことがあったので、Fラストをベースにした場合、他のラストはどのサイズを選ぶべきかを問い合わせたことがありました。
その際にVASSのセールスマネージャーの方からもらった回答は以下の通りです。
・P、P2,、RラストはFラストからハーフサイズダウン
・Budapestと3636ラストはFラストからハーフかワンサイズダウン
・U, K, SラストはFラストと同サイズ
上記のように選んで貰えばきっと大丈夫だとは思う。ただ、U,K,Sの場合、内羽根の場合はインステップをMTOで少し調整した方が良いかもしれないよ
今回ご紹介した中ではSラストは残念ながら合わない結果となりましたが、他は上記の方程式で問題ない結果が得られています。
Budapestと3636はハーフサイズダウンかワンサイズ下げるかは難しいところではありちょっとトライするのに足踏みしてしまっていますが、私のご紹介しているサイズ感に加えて上記も参考になれば幸いです。
まとめ
VASSで足入れしたことのある6種類のラストとそのサイズ感について記載いたしました。
私個人としては足に合うものが多くかかとの抜けも本当に少ないため、快適に履くことのできる靴が数多く揃っており、一番好きなメーカーと言っても過言ではありません。
さらに、靴だけでなくオンラインでの対応も素晴らしい。直接店舗で買うことができないのが悔しいくらいです^^;
改めて、それぞれの特徴とサイズ感をまとめると以下のようになります。
ラスト | モデル | サイズ表記 | ラストの特徴 | サイズ感 |
U | Budapest Oxford | 40.5 | 細身で甲も低めでこの中で最もタイトなラスト。アーチの支えは一番。 | ジャストからややタイト。ボールジョイントより先は特に細いが馴染めば問題なし |
K | London 3eyelet | 40.5 | 細身に見えるものの履いてみると不思議とタイトには感じない。2,3の甲がやや高いためだと想定される。 | ジャスト。デザイン的なものだとは思うが羽根は閉じる |
F | Italian Oxford | 40.5 | クセがなく万人に受け入れられやすいラスト。まずはFラストから始めるのもおすすめ | ジャスト。1の甲に少し距離は感じるがフィット感よし |
S | Wholecut | 40.5 | 細身に見えるが1,2,3の甲いずれも高いため、甲高の人に合いそうなラスト | 残念ながら大きい。羽根も閉じ切りまだゆとりがある |
P2 | Budapest | 40 | 東欧靴らしいフォルムをしながらもホールド感もしっかりとしている。 | ジャスト。程よくタイトであるがどこも痛くない。おすすめ。 |
P | Slipper | 40 | P2ラストから少しウィズを広げたフォーファー専用ラスト | ジャスト。かかとの抜けはないがタイトでもない。 |
足は立体のため、あくまでも私のケースであり万人に合うような共通の方程式を出すのは難しいかと思いますが、VASSの購入時のご参考になれば幸いです。
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